病院とわたくし
まじめな会議直後の事である。
筆者はトルかまに、ある書類の作成を依頼していた。
その書類は、会議終了時点では完璧な形でできていなければならないものであった。
会議が終わり、皆挨拶の上、散会しようとした瞬間であった。
トルかまが突然胸のあたりを押さえ苦しみ始めたのである。
優しい英国人は、心臓発作を心配し、脈を取ったり、Yシャツのボタンをはずしたりし始めた。
最初は
「こ~の、演劇部が!!」
と思っていた筆者も、周りのあわてぶりが伝染した為、仕方なく
「どうした?大丈夫か?」
と声をかけたのであった。
これに対するトルかま回答は、
「胸がつりました。」
であった。
魔邪ならずとも、
「はあ~!?!」
である。
「胸がつっただと~!?!」
である。
筆者はこれまで42年間生きてきたが、股間がつった事はあっても胸がつった事は一度もないし、聞いた事もない。
ここで、ようやくトルかまの姑息な作戦を確信した筆者である。
筆者の依頼をシカトする為に、そこまでやるとは見事なものである。
結局、トルかまの本質を見抜けていない外人達の奨めで近くの病院へ行くこととなったトルかまであるが、読者の皆様は既に見切られた通り、これは言うまでもなく仮病であり、演技である。
しかも三流の猿芝居をこきやがったのである。
猿小路こきまろである。
勿論、病院で異常など発見されるはずもなく、元気に病院から御帰還になったトルかまであった。
おかげさまをもちまして、トルかまに依頼していた書類仕事は、きっちり筆者がやらせて頂いた事を、ここに申し述べておかなくてはなるまい。さぞかし本望であろう。
尚、トルかま御帰還後、付き添っていたトルコ人から内密に聞いたところでは、病院でトルかまを診察したのは女医で、トルかまは病院に到着したとたん元気になったのみならず、女医の前で全裸になり、
「ここが痛い、タッチ・ミー、タッチ・ミー」
と、とんでもないところを突き出していたらしい。